デジタル技術の発展に伴い、多くの分野が恩恵を受けています。
医療もしかり、歯科医療もしかり。
いろんな会社やサービスが独自のデジタル技術を持っていますが、治療のフロー中でそれらをいかにひとつなぎにするか。これが難しい。
診断機器に強いメーカーもあれば、手術に強いメーカーもあります。
一つのメーカーで川上から川下まで効果的に網羅している例はまだあまりありません。
しかしながら、デジタルトランスフォーメーションも黎明期を越えて、イノベーションを引き起こす段階まで来ています。
当院では、可能な限りデジタル技術を取り入れつつ、患者さんのメリットが最大化するようにしています。
昨日の症例はデジタル技術がインプラント治療において効果的に発揮された症例ですので、一つ共有させていただきます。
前歯のブリッジが割れたという患者様。
パノラマエックス線画像を撮ると、いままで見たことがないほど長いブリッジが入っています。
随分前に上の前歯を無くされ、顎の骨も薄くインプラント治療もできない状態だったため、苦肉の策で長ロングスパンのブリッジを製作されたとのこと。
力学的には非常にリスクのある設計ですが、これでも20年以上持ったとのこと。
いやはや、前の先生がすごいです。。
今回は右上の支台の歯が折れて、感染してしまっていたため、抜歯することになりました。
さて、ただでさえギリギリの設計のブリッジでしたが、さらに一本の歯を失ってしまうということで、いよいよブリッジでは補綴設計ができない状態です。
CTを撮影してみたところ、前歯の骨の厚みは、わずか1−2mmしかなく、インプラントに必要な骨の厚みは最低でも8mmほどは必要であることを考えると、この条件ではインプラントを埋入することはできません。
↑矢状断(骨幅が極めて薄い)
顎骨の再生(再建)術を行い、インプラントを埋入する必要があります。
まず理想的な前歯の形を仮歯としてつくり、お口の中にセットします。
その状態を口腔内3Dスキャナーで記録し、
撮影したCTデータと重ね合わせることで、
歯と歯ぐきの形、そして骨の形が統合された3Dデータができます。
その3Dデータをもとにして、埋入必要部位のシミュレーションを行います。
かなり細かく解剖学的診断、補綴的診断を行い、インプラントの埋入位置の最終決定を行います。
決定された埋入位置に正確にインプラントが植立されるように、サージカルガイドを3Dプリンターで製作します。ドリルの軸ブレが最小限に抑えられるように、工夫しています。
(センシティブな画像のため、画像サイズを小さくしています)
インプラントを埋入したあとは、骨の再生再建治療を行います。
かなり薄い顎骨でした。高さはありましたが、幅が少なかった。
術後は2mmだった顎堤を8mmまで増大しました。
埋入したインプラントをアンカーにチタンメンブレンでスペースメイキングし、
人工骨材を移植しました。その上からコラーゲン生体膜をかぶせて保護しています。
↑ 術前と術後のCT像の比較です。
造骨とインプラント埋入は同日にできることもありますし、同日にできないこともあります。この日は、骨再建とインプラント埋入を同日に行う術式でした。
同日に行うことができれば、治療期間の大幅な短縮に繋がります。
(その代わり、術後の腫れや合併症のリスクが上がる可能性があります)
手術時間は2時間程度でした。
インプラントの埋入自体は10分ほどで終わってしまいました。
デジタル技術もここまで発展してくると、日常臨床をガラリと変えてしまいます。
診断から、基本治療、外科治療、補綴治療にいたるまで、一貫した方向性の中で、正確な治療ができるようになってきました。
デジタル機器が発展してくる中で、いろんな便利な機器や商品が増えてきていますが、ただ導入するだけではなく、それらを効果的に使いこなしていくことで、患者さんのメリットを最大化できると感じております。
LOTUS 矢野